than I と than me、
どっちが正しい?実会話は7対2で than me
「He is taller than I. が正しい」「いや会話では than me だ」——この論争は昔から結論が出ていません。そこで、7ジャンルの動画76本に出てきた than を176回すべて拾い、うしろに人称代名詞が来た27件を1件ずつ読んで分類しました。すると、正しい・正しくないではなく、形が2種類に完全に分かれていることが見えてきました。
まず、学校で習うルール
than を接続詞と見ると、うしろには〈主語+動詞〉が来ます。He is taller than I am. の am を省略すると than I になる——だから主格の I が正しい、という説明です。
一方で than を前置詞と見れば、うしろは目的格になるので than me が正しい。どちらの説明も文法として成り立っているので、参考書によって言うことが違います。
実データ:27件を分けると、きれいに割れた
than 176回のうち、うしろに人称代名詞(I / me / he / him / we / us など)が続いたのは27件でした。これを主格・目的格で分けると、こうなります。
これだけ見ると「主格のほうが多い= than I が優勢」に見えます。ところが、中身を開くと話が逆になります。
主格20件のうち18件は、うしろに動詞があった
主格が使われた20件を1件ずつ見ると、18件はうしろに動詞が残っていました。than I ではなく、than I am や than I thought の形です。
| 形 | 件数 | 中身 |
|---|---|---|
| 主格+動詞(than I am 型) | 18件 | than が接続詞。うしろが〈主語+動詞〉で完結している |
| 主格だけ(than I 型) | 2件 | 同じインタビューの繰り返し(後述) |
| 目的格だけ(than me 型) | 7件 | すべて動詞なしで言い切っている |
つまり、主格が選ばれていたのは「than I が正しいから」ではなく、うしろに文(主語+動詞)を続けたから主語が要っただけです。動詞を続けない場面で残っていたのは、目的格のほうでした。
動詞を続けるなら主格:than I am / than I thought
うしろに動詞まで言う形では、主格しか出てきませんでした。いちばん多かったのは than I thought(4回)、次が than I am(3回)です。
| The line moved a lot faster than I thought. | 列は思っていたよりずっと早く進んだ(雑談) |
| She's more patient about that stuff than I am. | そういうことについては、彼女のほうが私より辛抱強い(街頭) |
| The place got busier than we expected tonight. | 今夜は思っていたより忙しくなった(厨房) |
この形の than は接続詞です。うしろが文になっているので、主語は主格になります。ここで than me と言うことはできません。
言い切るなら目的格:than me / than us
逆に、うしろに動詞を続けずそこで言い切る形は7件すべてが目的格でした。内訳は than me が5回、than us が2回。than I や than we で言い切った例は、この形では出てきません。
| My cousin is two years older than me. | いとこは私より2つ年上です(スタンダップ) |
| He's way better than me at cooking. | 料理は彼のほうが私よりずっと上手い(雑談) |
| Their team gets way more support than us. | あのチームのほうが私たちよりずっと支援を受けている(対談) |
ジャンルもばらけていて、ゲーム配信・雑談配信・対談・スタンダップコメディの4ジャンルで使われていました。特定の話し手のクセではありません。
than I で言い切った2件は、同じ場面の繰り返しだった
ここが今回いちばん重要なところです。than I で言い切った2件を開くと、2本の動画で同じインタビューが繰り返されているものでした。しかも話し手は、言った直後に自分で言い直しています。
| — How long have you lived here? — About ten years. — Oh, so you've been here longer than I… no wait, I've been around twice that. | 「ここに住んでどのくらい?」「10年くらいです」「じゃあ私より長いですね……いや待って、私はその倍いました」(街頭) |
つまり than I で言い切る形は、実質1つの場面でしか出てこず、しかも言いよどんだ流れの中で出たものでした。「自然に選ばれた than I」は、76本のなかに見つかりませんでした。
※ 2件が同じ場面に偏っている点は、そのままサンプルの弱さでもあります。母数は27件と大きくないので、「than I は使われない」ではなく「言い切る形で than I が自然に選ばれた例は見つからなかった」と読んでください。
than you は数えられない
than のうしろに you が来た形も16回ありました。ただし you は主格と目的格が同じ形なので、than you だけでは話し手がどちらのつもりで言ったのか判定できません。今回の27件からは than you を外しています。
同じ理由で、than that(7回)・than this(7回)のような指示語も、主格・目的格の区別がないので対象外です。
結局どう言えばいいか
- そこで言い切るなら than me。会話で実際に選ばれていたのはこちら
- 動詞まで言うなら than I am / than I thought。この形なら主格で、フォーマルな場面でも安全
- 避けたほうが無難なのは than I で言い切る形。文法の説明としては成り立つが、実会話では自然に選ばれていなかった
- 迷ったら動詞まで言い切る。than I am は「正しさ」と「自然さ」を両方満たせる
※ than 全体の内訳は、うしろが名詞で終わる前置詞用法が119回、〈主語+動詞〉が続く接続詞用法が42回、than working for someone のような動名詞句が15回の計176回です。than そのものの使い方は than の使い方 にまとめています。